定時制高校

新聞によると定時制高校の入学志望者が増えて入れない人が出ているという。

定時制で思い出す人物がいます。

私が19才の時知り合った3、4才年上の男性のこと。

彼はその当時 定時制高校生。いつも服装はヨレヨレ、頭はボサボサ(鏡を見て自分で切っていた)

怖い顔が笑うと人懐っこくなり、人と話す時はいつも 笑みをたたえて穏やかな口調でした。

飄々として何か世の中を達観している雰囲気があり、私には随分と大人に思えました。

当時、幼いなりに悩んでいた私を部屋に呼んでくれ、ゆっくり話しをしてくれました。

その時話してくれた彼の話です。


彼は北陸の貧しい母子家庭に育った。

食べ物に事欠くほどの貧しさで、近所の家や畑から食べ物を盗み、空腹を満たしていた。

当然、近隣の鼻つまみ者で、どうしょうもない悪ガキだった。

幸い?にも‥殴られても殴られても、盗みを繰り返す食欲のおかげで体格は人並み以上になった。

無論、学校は大嫌い、教室に入ると先生から「邪魔だから出ていけ」と言われ、悔しくて悲しくて

幾度となく、泣きわめいて、暴れて、やはり先生に殴られ教室から放り出された。

中学生にもなると、大人も手を付けられない一人前のワルになっていた。

「万引き、泥棒、カツアゲ、婦女暴行…悪いことは一通り全部やった。」

そして、ある日、同級生と「いつものように」喧嘩になった。

彼は手元にあった木の棒をとり、手加減も知らず相手の頭を力任せに殴り、相手は死んでしまった。

あっけなかった。

人って、こんなに簡単に死ぬんだと思った。

殺人。当然、逮捕。少年院に送られた。

そして彼はそこで、素晴らしい人物に出会った。

A先生。

彼はA先生の熱心な指導で更生した。

少年院を出ると彼は住み込みの職を得て定時制高校に入学する。

高校では給食があった。

彼は給食当番を買って出た。

仕事で欠席する人が必ずいたので、その残った給食を持って帰り翌日の食事にした。

そうして浮いたお金は全て「母ちゃん」に送った。「余分な金は遊びたくなるから」

定時制を卒業したら夜間大学に行って教員免許を取るねん」と自分の夢を語った。

「アホな子供は、俺みたいなアホが教えてやった方がええねん」ケラケラと大口開けて笑っていた。


彼の机の前の壁には、思いっきり下手くそな字で「目指せ!A先生」と書いた紙が貼ってありました。

暗い帰り道、自分の甘さに打ちひしがれた気分で歩いた記憶があります。

美談ではありません。

彼に傷つけられた人達も沢山いるのですから。

しかし、定時制を目指す事情は色々だと思いますが、こういう人もいるのです。

だから、税金で運営される学校は学びたい人には無条件、無制限に門戸を開くべきだと思います。

その代わり、勉強しない学生はドンドン退学させれば良いのです。

真に学びたくなれば、いつでも入学出来るようにして。

我が社の面接には簡単な筆記試験があります。台形や三角形の面積も計算出来ない大卒者がなん

と多いことか。この国の教育システムは抜本的な改革が必要だと思います。

上級試験に合格すれば自動的に出世する高級官僚には望むべくもありませんが。


彼の話はその後の私に大きな影響を残しました。

我が社では、自ら勉強して向上しようとする人には応援を惜しみません。